概要
通常の抗体作製は、ペプチドや精製されたタンパク質を抗原とし、動物に免疫して作製しますが、『DNA免疫法』は発現ベクターに組み込んだ目的タンパク質の遺伝子を動物に導入し、動物の体内で発現させて、その目的タンパク質を抗原として抗体を作製する技術です。
富士フイルム和光純薬社では、ドイツのAldevron社で開発された技術を導入したモノクローナル抗体作製受託サービスを提供しています。
DNA免疫法とは?:抗体作製技術
DNA免疫法とは抗体作製方法のひとつです。ターゲット抗原のcDNAを含む発現ベクターを作製し、ベクターを免疫動物に直接投与します。投与されたターゲット抗原のcDNAは、ベクターのプロモーターによって転写され、免疫動物の体内で発現し、免疫原性を獲得します。
従来の抗原(ペプチド・タンパク質)を用いた免疫では取得が難しかった膜タンパク質などに対する抗体も、DNA免疫法では高い成功率を得られています。
特長
- 精製抗原を調製する必要がありません。
- ネイティブフォームのタンパク質を認識する抗体作製が可能です。
- 複数回膜貫通型タンパク質に対する抗体作製の実績が多数あります。
- ホモロジーの高いターゲットに対する抗体作製が可能です。
本サービスの優れている点
- DNA免疫法に最適化した発現ベクターを使用
DNA免疫用に最適化したベクターファミリーから目的に合わせて適切なベクターを選定します。また、いずれの専用ベクターもターゲット抗原が細胞表面に発現し、抗原提示しやすいように設計します。
- 免疫増強タグの使用
発現させる抗原の免疫原性を高める特殊な配列をベクターに組み込みます。
- 効率的なDNAデリバリー
免疫動物への免疫方法によっても得られる抗体の性能は変わります。富士フイルム和光純薬社ではベクターの設計だけでなく、免疫方法も最適化しています。
- Native Form抗原を用いたcell-baseスクリーニング
ターゲット抗原を表面に発現させた細胞を作製し、cell-baseスクリーニングを実施します。
過去のDNA免疫による抗体作製受託サービスにおける実績(~2022年3月末)
富士フイルム和光純薬社での受託実績をターゲットタンパク質の種類別に表にまとめました。
全体として、膜タンパク質など従来のタンパク質抗原免疫法では難しいターゲットにおいて、高い抗体取得率を得られています。特に、複数回膜貫通型の膜タンパク質をターゲットとする抗体作製のご依頼を多くいただいています。
Protein Type / Localization |
Projects |
成功率(%) |
分泌型タンパク質 |
15/17 |
88.2 |
膜タンパク質(タイプⅠ型) |
55/59 |
93.1 |
膜タンパク質(タイプⅡ型) |
3/5 |
60.0 |
膜タンパク質(GPI-アンカー型) |
6/6 |
100 |
膜タンパク質(複数回膜貫通型) |
48/64 |
75.0 |
細胞内、核タンパク質 |
5/6 |
83.3 |
ウイルス由来タンパク質 |
2/3 |
66.7 |
Total success rate: |
134/160 |
83.8% |
通常のモノクローナル抗体作製方法では、DNA情報から組み換えタンパクを調製するか、ペプチドを合成し、それらを抗原として免疫動物へ投与して抗体を取得します。
一方、DNA免疫法は、プラスミドを直接免疫動物へ投与し、免疫動物の体内でターゲットタンパク質を発現させ、免疫を惹起します。 従来のタンパク質・ペプチド免疫法と比べ、「抗原タンパク質・ペプチドが不要」「抗原のコンタミネーションが起こらない」「抗原変性が起こらない」「ターゲット抗原の改変が容易」といったメリットがあります。
中和抗体(機能性抗体)を得られやすい点も特徴のひとつです。
DNA免疫法で取得した抗体とアプリケーション(fig.2)
DNA免疫法で作製された抗体の実験アプリケーションには向き不向きがあります。 DNA免疫法によって得られる抗体は、ネイティブフォームの非変性タンパク質を認識するため、非変性タンパク質の検出に適しています。例えば、プルダウンアッセイ、ELISA、フローサイトメトリー、抗体アレイです。治療・診断を視野に入れた抗体取得にも向いています。
しかしながら、変性タンパク質抗原は認識しないケース多いため、還元条件におけるウエスタンブロット用抗体としては適していません。SDS-PAGEにおける還元剤の作用によって、サンプル中のタンパク質が変性するため、DNA免疫法で得られる「タンパク質のネイティブな立体構造を認識する抗体」が反応しなくなります。
作業の流れ
Feasibility Study
- 抗体作製戦略の立案
ご依頼いただいた配列情報や使用目的を元に、ターゲットの構造及び性質を分析し、抗体作製戦略を提案させていただきます。
具体的には、富士フイルム和光純薬の持つin-house発現ベクターの中から、ターゲットの構造及び性質を踏まえた最適なベクターを選択し、最適な免疫領域及び免疫方法、スクリーニング方法を報告書と共に提案させていただきます。
Milestone 1
- 哺乳細胞における抗原の発現解析(フローサイトメトリー)
細胞表面での発現確認:上記Feasibility Studyで決定した内容に基づき、ターゲット遺伝子をin-house発現ベクターにクローニングし、免疫プラスミドを作製いたします。それを用いてターゲットの細胞表面での発現レベルを一過性強制発現細胞を用いてフローサイトメーターを用いて評価します。このステップでの発現レベルが、Milestone 2(免疫)への移行の重要な判断材料となります。このベクターにはあらかじめtag配列が含まれており、発現確認には抗tag抗体を用いてターゲットの発現レベルを確認いたします。
Milestone 2
- 抗血清(ポリクロ―ナル抗体)の作製
動物への免疫:作製した免疫用プラスミドを動物に免疫いたします。免疫方法は皮下免疫です。6~10週間にわたって免疫を行った後に抗血清を回収します。
抗体価をMilestone 1で作製した一過性強制発現細胞を用いてフローサイトメーターで評価します。また、抗血清は個体ごとに回収し、オプションでお客様へ評価用サンプルとしてお送りします。なお、この解析の際に用いる発現ベクターは、免疫に用いたものとは異なるtag配列が挿入されているものを用いるため、tagに対する抗体価は除外されますので、特異抗体価を測定することになります。
Milestone 3
- モノクローナル抗体の作製
Cellベースのスクリーニング:モノクローナル抗体のスクリーニングは、一過性強制発現細胞を用いたフローサイトメトリーとCell-ELISAによる解析を行います。場合によってはお客様ご指定の細胞を用いて、解析作業 / スクリーニングを実施いたします。なお、本スクリーニングに用いる発現ベクターもMilestone 2血清解析時に用いたものと同様、免疫に用いたものとは異なるtag配列が挿入されているものを用いるため、tagに対する抗体は除外されます。
最終的には、特異的反応性を示すハイブリドーマ細胞6クローン(各3本)とその培養上清3mLを納品させていただきます。