概要
タンパク質の高次構造や構造変化は、バイオ医薬品の有効性に密接に関係しています。そのため、創薬や開発において、タンパク質の高次構造、立体構造、および結合分子間の相互作用をよく理解することは非常に重要です。
HDX-MS は、タンパク質のアミド結合で起こる自然なプロトン交換を利用した質量分析法であり、結合前後のタンパク質における重水素交換速度を比較することで、立体構造変化やタンパク質相互作用領域について知見を得ることが可能な解析サービスとなっております。
特長
- 異なる分子量を持つタンパク質を、正確に特徴づけ可能な、高感度・高精度な解析
- バッチ間再現性の高さ
- Orbitrap ExplorisTM 240質量分析計などを用いた先進的なシステムを採用
- お客様のサンプルの種類、サイズ、解析に応じて、最適な方法をカスタマイズすることが可能
- 解析では、3Dモデリングを用いた可視化された解析データをご提供
サービス内容
本解析では、重水素とタンパク質中のアミド水素の交換速度に基づいて構造解析ならびにエピトープ解析を行うことが可能な解析サービスです。単一のタンパクサンプル(Apo)とタンパク質複合体サンプル(Holo)の重水素交換速度を比較します。結合領域では、アミノ酸は重水素への置換が遅いため、これらの複合体形成前後の重水素交換速度を比較することで、タンパク質相互作用領域を検出することができます。また、構造解析において、重水素への交換速度によって、タンパク質の構造・構造変化の解析を行うことが可能です。(例:重水素との交換速度が速い領域は、タンパク質の表面上にあるアミノ酸であり、一方遅い領域はポケット構造を持つ傾向にあります。)
◆HDX-MS 解析ワークフロー
- 予備検討試験(Feasibility Test)(fig.1)
本解析では、解析の前に予備検討試験を行います。本試験は、結合領域や構造変化解析を行いたいサンプル単体(Apo)、および複合タンパク(Holo)を解析するプレテストです。この時、重水素水とサンプルの反応時間(HDX-Time)は2点取得され、Replicate はシングルで測定されます。このテストに合格した場合のみ本解析に移ります。
- サンプル調製
- 重水素水との反応(HDX time):反応時間は通常30秒、1分、10分のいずれかの1点となります。
反応時間は、予備検討試験の結果を基にお客様に決めていただきます。構造変化(Kinetic test)を検出したい場合、反応時間を複数点置くことが可能です。反応時間を追加する場合、追加料金が発生いたしますこと、予めご了承ください。
- 低pH(pH2.5)、低温条件(0℃)による Quench
- 質量分析(1サンプルあたり Triplicate で実施いたします。)
- データ解析
納品物
- 配列カバレッジを含む Raw data(Excel 形式)
- 解析レポート(pdf または word 形式)
- 解析画像ファイル(fig.2)(fig.3)(fig.4)*
* 3D立体構造解析を御希望の場合は、ご注文時に立体・結晶構造が記載されたPDBファイルをお送りください。利用可能な構造情報がない場合、有償の in silico 解析により、3Dモデルをシュミレーションして解析を行うことも可能なため、ご相談ください。
必要サンプル条件
必要量・濃度: 3-5mg/ml のタンパク質溶液を 150-200μl ご準備ください。(*1)
バッファー: 解析サンプルは安定した水性バッファーにてご準備ください、(PBS推奨)(*2,3)
サンプルご提供時に解析サンプルの正確なアミノ酸配列情報を FASTA、txt、word にてご提示ください。
エピトープ解析の場合、形成される複合体が安定的であるかご確認ください。(Kd値:μM、nM 推奨)
不安定で解離しやすいことが既知の場合、お問合せ時にご教示ください。カスタム解析にて対応いたします。
溶液でのご提出の場合、ドライアイスと共にフィルジェン社までお送りください、粉末の場合、安定状態をお確かめの上、適切な温度にてご送付ください。
* 1:分子量によって必要量が異なる場合がありますので、お問合せの際に分子量をご提示ください。
* 2:タンパク質溶液に含まれる不純物10%未満の溶液をご提出ください。
夾雑物が判明している場合などは、ご相談ください。クマシー染色による不純物の確認を推奨いたします。
* 3:プロテアーゼ阻害剤・界面活性剤はバッファーに含めないでください。
(サンプル採取時の注意事項)
タンパク質抽出の際に使用するチューブによっては、PPまたはPEなど、チューブ材質由来のピークが検出され、ペプチドのイオン化を阻害し、データ解析に重大な影響を及ぼす可能性がありますので、ご注意ください。また、過剰にボルテックスなどをかけない様にご注意ください。
タンパク質に界面活性剤など(ポリマー)が多量に残留していると、ポリマーがサンプル由来のペプチドのイオン化を阻害し、データ解析に重大な影響を及ぼす可能性がありますので、ご注意ください。
動物検疫・国際条約等に該当するサンプルの場合、輸送手続きに日数を要する、またはお取り扱いできないことがあります。こうしたサンプルは、フィルジェン社提携先にて受入れが不能、または拒否されたりする場合もございますので、事前にお問合せください。