概要
病態可視化マウスの販売および,同マウスとの交配受託サービスを承ります。繁殖許諾権や小ロットから大ロット(30匹以上)まで、幅広い納品数に対応します。
* 株式会社トランスジェニックでは、大学や研究機関などで樹立された遺伝子改変マウスを、ライセンス許諾を受けて販売しております。
「小胞体ストレス可視化マウス(ERAI-Lucマウス)」「酸化ストレス可視化マウス(OKD-Lucマウス)」は、金沢医科大学 岩脇隆夫先生の発明によるものです。
「生体ストレス可視化マウス(UMAIマウス)」は、金沢医科大学・トランスジェニック社の共同研究により開発されたものです。
「炎症可視化マウス(IDOLマウス)」は、群馬大学・熊本大学・トランスジェニック社の共同研究により開発されたものです。
サービス一覧
- Tg型小胞体ストレス可視化マウス(ERAI-Lucマウス)
- KI型小胞体ストレス可視化マウス(ERAI-Lucマウス)
- 酸化ストレス可視化マウス(OKD-Lucマウス)
- 生体ストレス可視化マウス(UMAIマウス)
- 炎症可視化マウス(IDOLマウス)
小胞体ストレス可視化マウス
ERAIマウスは、IRE1によるXBP1 mRNAのスプライシングを可視化できるレポーターマウスです。UPR(Unfolded Protein Response)の経路を利用してレポーター原理としています。
小胞体ストレス可視化マウスの特長
- 小胞体ストレス可視化マウス(Tg型ERAI-Lucマウス)
・小胞体ストレスを可視化するERAI遺伝子を導入したマウスです(遺伝型:ヘミ Tg(ERAI/+))。
・ルシフェラーゼをレポーターに、小胞体ストレスを発光で示します(fig.1)。
・CAGGSプロモーターでERAIが発現し、全身で小胞体ストレスの検出が可能です。
- 小胞体ストレス可視化マウス(KI型ERAI-Lucマウス)
・ROSA26遺伝子座にERAI遺伝子をノックインしてあります(遺伝型:ヘテロ Rosa(ERAI/+))。
・Creマウスとの交配で、特定の組織でERAIを発現させることができます。
・目的外の組織のルシフェラーゼ発光を抑え、観察を容易にします(fig.3)。
小胞体ストレス可視化の原理
ERAI(ER stress activated indicator)遺伝子には、小胞体ストレス因子であるXBP1タンパク質の発現制御の仕組みが利用されています(
fig.2)。
小胞体ストレスが無い状況では、XBP1 mRNAは、イントロンがあるままで翻訳され、不活性型XBP1タンパク質が合成後、速やかに分解されます。一方、小胞体ストレスが入ると、イントロンが除かれ、活性型XBP1が合成されます(
fig.2)。
ERAI遺伝子には、N末XBP1タンパク質とイントロンまでのcDNA配列がルシフェラーゼcDNAの上流につないであります。小胞体ストレスのシグナルを受けて、イントロン部分が除かれたとき、ルシフェラーゼタンパク質部分が合成され、発光する仕組みです(
fig.3)。
酸化ストレス可視化マウス(Tg型OKD-Lucマウス)
OKDマウスは、酸化ストレスによって惹起されるNrf2による転写誘導を可視化できるレポーターマウスです。Keap1とNrf2により制御されている酸化ストレス応答遺伝子群の反応をその原理として利用しています。
酸化ストレス可視化マウスの特長
- 酸化ストレス可視化マウス(Tg型OKD-Lucマウス)
・Tg型OKD-LUCマウスは、酸化ストレスを可視化するOKD48遺伝子を導入したマウスです(遺伝型:ヘミ Tg(OKDI/+))。
・ルシフェラーゼをレポーターに、酸化ストレスを発光で示します(fig.4)。
・ARE(Antioxidant Response Element)とTKプロモーターで、OKD48遺伝子が発現し、酸化ストレスを検出します(fig.6)。
酸化ストレス可視化の原理
- OKD48(Keap1 dependent Oxidative stress Detector that has the best performance in 48 candidates)遺伝子には、酸化ストレス因子であるNrf2タンパク質の発現制御システムが利用されています(fig.5)。
- Nrf2タンパク質は、酸化ストレス下で安定化・核移行します。さらに、核内でARE(Antioxidant Response Element)を介し、酸化ストレス遺伝子を発現させます。
- 正常時には、Nrf2はKeap1によるユビキチン化を受け、速やかに分解されます(fig.5)。
- OKD48遺伝子は、Nrf2のユビキチン化ドメインとルシフェラーゼを融合させて作られており、AREの制御下で発現するので、酸化ストレスの影響で、ルシフェラーゼを安定的に発現します(fig.6)。
生体ストレス可視化マウス(UMAIマウス)の特長
- ATF4の翻訳誘導を可視化できるUMAI-Luc遺伝子をもつトランスジェニックマウスです(遺伝型:ヘミ Tg(UMAI/+))。
- ルシフェラーゼをレポーターに、生体ストレスを発光で示します(fig.9)。
- UMAIマウスでは、アミノ酸飢餓、疑似ウイルス感染、小胞体ストレス、酸化ストレスの各種ストレスを誘導した際に、発光シグナルの誘導が観察されました(fig.9)。
生体ストレス可視化マウスの原理
- 生体ストレスとATF4
ストレスはヒトの様々な病態おいて重要な役割を担っていると考えられていますが、様々なストレスに対して生体は共通のシグナル経路を使用して、対応します。これがintegrated stress response(ISR)と呼ばれ、転写因子であるActivating transcription factor 4(ATF4)がその下流のストレス応答遺伝子の発現制御において中心的役割を果たします。これらのストレスにはアミノ酸飢餓、ウイルス感染、小胞体ストレス、酸化ストレスといったものが含まれます。
- UMAI遺伝子
ATF4遺伝子から転写されるmRNAには、真のATF4翻訳域の上流に”偽“の翻訳域が存在します(fig.7,fig.8 uORF1, 2)。翻訳開始複合体eIF2-GTP-Met-tRNAにより,非ストレス時にはこの偽の翻訳域から翻訳が開始され(AUG1, AUG2)、ATF4タンパク質は産生されません。しかし生体ストレスによって活性化されたリン酸化酵素によりeIF2αがリン酸化されると、翻訳開始反応が遅れ、真のATF4のタンパク質合成(AUG3)が開始されます(fig.7)。UMAIはこの機構を用いてレポーター遺伝子を発現させる仕組みです(fig.8)。
UMAIマウスでは、アミノ酸飢餓(ΔLeu給餌)、疑似ウイルス感染(poly I:C投与)、小胞体ストレス (Tunicamycin投与)、酸化ストレス(亜ヒ酸投与)の各種ストレスを誘導した際に、発光シグナルの誘導が観察されました(fig.9)。
生体におけるこれらストレスの継時的観察を行うツールとして、本マウスが有用であると考えられます。
炎症可視化マウス(IDOLマウス)
IDOLマウスは、炎症性サイトカインであるIL-1βの発現制御を可視化できるレポーターマウスです。
炎症可視化マウスの特長
- 炎症可視化マウスは、炎症を可視化するIDOL遺伝子を導入したマウスです(遺伝型:ヘミ Tg(IDOL/+))。
- ルシフェラーゼをレポーターに、炎症を発光で示します(fig.10)。
- IDOL遺伝子では、IL-1βプロモーターの制御下のルシフェラーゼに、IL-1βのCaspase-1切断配列を介して、タンパク質分解を促進するPEST配列が融合してあります。
IL-1βはNFκBによる転写制御と、インフラマソームでのプロセッシングにより、その成熟型の発現が制御されています。
NFκBは平常時にはIκBと結合して抑制された状態にありますが、炎症刺激によりIκBがリン酸化、分解されることによりNFκBが遊離して核内移行、IL-1βプロモーターに結合し、その転写を活性化します。
IL-1βタンパク質は前駆体として産生され、炎症刺激により活性化されるCaspase-1を含むインフラマソームにより消化されて成熟型となります。
炎症刺激により、IDOL遺伝子の転写活性化が起こると同時に、合成されたタンパク質において分解促進配列が切断され、ルシフェラーゼが安定的に発現します。
文献
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Iwawaki, T., et al., Sci. Rep., 5, 17205,(2015).