概要
ヒト腸内には、ヒト一人分の細胞数(37兆個)の約30倍以上にあたる1,000兆個の色々な細菌が生存し、腸内フローラ(腸内細菌叢、Microbiome、intestinal flora)を構成しています。腸内細菌は菌種によってヒトの健康に有益な物質を産生する一方、有害な物質も産生しています。
近年、腸内細菌叢と疾患の関係についての研究が急速に進展し、潰瘍性大腸炎、クローン病などの消化器疾患をはじめ、肥満、糖尿病などのメタボリックシンドローム、アトピー、アレルギー、がんなどの免疫疾患、さらには自閉症やうつ病など精神疾患にいたるまで様々な論文報告が出てきました。
腸内フローラの変動は、遺伝的な要因よりも、生活習慣、特に食事に大きく左右されていることが示され、肥満状態と正常体重で腸内フローラが、Firmicutes / Bacteroidetes(門)において異なること、また腸内フローラが変化することで生活習慣病を引き起こす可能性も報告されています。
1)2)3)4)これまで腸内フローラ改善法としてプレバイオティクス、プロバイオティクスの概念のもとオリゴ糖、乳酸菌、ビフィズス菌などの摂取が推奨されてまいりました。しかし近年の研究報告から、生体は腸管上皮杯細胞から分泌されるムチン、粘膜固有層の形質細胞(プラズマ細胞)より分泌されるIgAなどの物質を介して、腸内フローラとある一定の距離を置いて接しており、またこれらの物質は、摂取した食品成分によって大きく変動することが示されてきています。
5)6)
これまで腸内細菌の解析には培養法が多く用いられてきました。しかしながら、培養法が確立できている菌種は腸内細菌のわずか20%程度で、解析には多大な労力と熟練が必要でした。近年はそれに代わって分子生物学的な手法が発達し、簡便に、再現性の高い解析が可能になりました。
7)8)その中で、コスモ・バイオでは腸内細菌の16S rRNA遺伝子による「メタゲノム解析」を用いて解析いたします。解析オプションとしてメタゲノム解析データ成型解析によるα多様性、β多様性解析、Unifrac Distance解析をサービスメニューとして用意しております。また、PICRUStなど一部解析を追加する事も可能です。さらに、コスモ・バイオでは糞便中の腸内環境解析メニューとして、腸管バリア機能の指標といえるムチンとIgA含量の測定を行っています。
参考文献
- Ley RE, et al., Proc Natl Acad Sci U S A 2005 102: 11070–11075.
- Ley RE, et al., Nature 2006 444: 1022–1023.
- Vijay-Kumar M, et al., Science 2010 Mar 4. [Epub ahead of print]
- Ridaura VK, et al., Science. 2013 Sep 6; 341(6150): 1241214.
- Utama Z, et al., Plant Foods Hum Nutr. 2013 Jun; 68 (2): 177-83.
- 森田ら(2010)大豆たん白質研究 Vol. 13
- 松木(2007)日本細菌学雑誌 62: 255-261.
- 中山ら(2004)腸内細菌学雑誌 18: 147-153.
受託サービスフロー
- 糞便からのゲノムDNA抽出から菌叢解析(fig.1)
糞便からゲノムDNAを抽出し、16S rRNA領域配列を用いた次世代シーケンサーによるメタゲノム解析にて腸内フローラの解析を行います。メタゲノム解析では次世代シーケンサーを用いて1検体あたり100,000リードを目標として腸内フローラの網羅的な解析を行います。解析レポートには、門から種まで全ての階層での分類結果、Chao1、Shannon、Gini-Simpsonの各多様性指数、PCoA(主座標)分析、UPGMA法による系統樹などのデータが含まれます。
- α多様性解析(次世代シーケンス解析納品データに含まれます)(fig.2)
α多様性とは個体内の環境における種多様性を表す指標です。本サービスではレアファクション解析の他、サンプルごとの多様性指数を算出し腸内細菌種数の比較を行います。
- β多様性解析(次世代シーケンス解析)
メタゲノム解析データを成型し、PCoA解析2D(fig.3)、3Dプロットデータ(fig.4)、樹形図(fig.5)を作成致します。
プロットデータでは距離が離れているほど、樹形図では上流で分かれているほど菌叢の差が大きい事を表します。
- Unifrac distance解析(fig.6)
サンプル間の総当たりの距離データ、検定結果を収録していますので、ご自身で任意の群間で距離の有意差検定も可能です。
- 粉末糞便を用いた腸管バリア機能(IgA、ムチンの定量)
消化管内ではIgAとムチン等によって、腸内細菌や腸内細菌が産生する毒素が生体内に侵入してくることを阻止しています。 (fig.7)コスモ・バイオでは腸管バリア機能として、糞便中のIgA含量およびムチン含量を測定します。(fig.8)(fig.9)IgAはELISA、ムチンはコスモ・バイオで開発した蛍光測定キット(品番:FFA-MU-K01)にて測定致します。
- αディフェンシン測定
マウスの小腸で分泌されるαディフェンシンのなかで最も抗菌活性が高く、腸内環境に与える影響が大きいと考えられているCryptdin-4(Crp4)1)をELISAにより測定します 。2)なお、測定対象となるマウスストレインはICR/CD1です。3)
参考文献
1. Garcia AE, et al., Biochemistry. 2011 Dec 6;50(48):10508-19.
2. Nakamura K, et al., Anal Biochem. 2013 Dec 15;443(2):124-31.
3. Michael T. S. et al., Infect Immun. 2011 Jan; 79(1): 459–473.