概要
モルフォリノアンチセンスオリゴ(Morpholino Antisense Oligo)は、タンパク質の翻訳阻害やmRNAのスプライシング阻害に使用できる、第三世代のアンチセンスです。従来使用されているS-Oligoなどのアンチセンスの問題点(特異性、安定性、細胞毒性、配列決定の難しさなど)を克服し、培養細胞への容易な導入方法が確立されているため、遺伝学や薬物の標的分子の研究に広く使用されています。
モルフォリノアンチセンスによるエキソンスキッピングは、デュシェンヌ型筋ジストロフィー治療など核酸医薬の研究にも使用されています。また、発生にかかわる遺伝子の機能解析の最適なツールとしても、多くの研究者に用いられています。特にアフリカツメガエル、ゼブラフィッシュ、ウニなどの受精卵にマイクロインジェクションで導入することにより、標的遺伝子の発現を特異的に阻害でき、その使用例も数多く報告されています。
モルフォリノオリゴとは
モルフォリノオリゴ(Morpholino Oligo)とは(
fig.1)
モルフォリノオリゴ(Morpholino Oligo)は、RNAのリボースの代わりにモルフォリン(Morpholine)化合物を骨格に有するオリゴです。細胞毒性がない、ヌクレアーゼ耐性のため細胞内で分解されない、RNAとのアフィニティが強く標的mRNAの二次構造にかかわらず目的の配列に結合する、タンパク質に対する非特異的な結合を行わない、水溶性が高い、などの特長を有します。(
fig.2)
このモルフォリノオリゴをアンチセンスに用いたものが、モルフォリノアンチセンスオリゴ(Morpholino Antisense Oligo)となります。
モルフォリノアンチセンスの特長
- 細胞毒性がありません。
- アンチセンスオリゴヌクレオチドを構成しているモルフォリノ化合物(fig.3)は、ヌクレアーゼ耐性のため細胞内で分解されません。
- RNAとのアフィニティが強く、標的mRNAの二次構造にかかわらず目的の配列に結合するので、容易に有効な配列設計ができます。
- モルフォリノオリゴとRNAのTm値は、天然DNAとRNAのTm値より少し高い値を示し、安定した結合を形成します。
- 電荷を持たないため、タンパク質に対する非特異的な結合がありません。
- モルフォリノ-RNAのヘテロ二本鎖はTLRを活性化せず、自然免疫応答の誘導がありません。
- 安定なためオートクレーブで滅菌することも可能です。
- 水溶性が高いため、調製が容易です。
モルフォリノアンチセンスとsiRNAの比較
|
モルフォリノアンチセンス |
siRNA |
ノックダウンのメカニズム |
タンパク質を介さずに立体障害を引き起こす |
細胞のウイルス防御機構や発現制御システム(RISC)を使用 |
非特異的応答 |
ほとんど起こらない |
頻繁に発生 |
認識配列 |
14塩基以上 |
約10塩基 |
自然免疫応答の誘導 |
モルフォリノ-RNAのヘテロ二本鎖はTLRを活性化しない |
siRNA-RNAのヘテロ二本鎖はTLR3を活性化する |
安定性 |
細胞内の酵素によって分解されない |
不安定でRNaseによって分解される |
ノックダウンレベル |
一部のモルフォリノは、ウエスタンブロット解析において標的タンパク質の発現量を検出レベル以下に抑える |
ノックダウン効率が85%を超えることはない |
阻害対象 |
翻訳、スプライシング、miRNA、タンパク質結合 |
翻訳のみ |
必要な配列数(成功率) |
未検証の配列でもノックダウン成功率は約75%と言われ、一般的に1種類のモルフォリノを用意すれば十分とされる |
効果的な配列を確認するために、少なくとも3~4種類のsiRNA配列を用意することが一般的 |
標的配列設計について
配列設計についての詳細は
こちらをご覧下さい。
- タンパク質の翻訳を阻害する場合
mRNAの5’キャップ部位から開始コドンの約25塩基下流までの領域を標的配列として、翻訳開始複合体を立体的に阻害します。ほとんどの場合、標的遺伝子に対して1つのモルフォリノオリゴをデザインするだけで非常に高い確率でタンパク質の翻訳阻害効果を示します。(fig.4)
- mRNAのスプライシングを阻害する場合
pre-mRNAのエキソンとイントロンの境界領域を標的配列として、スプライシングを阻害しmRNAの成熟を不完全にします。ノーザンブロッティングやRT-PCRといったRNAレベルでの解析により阻害効果を確認できます。特定のスプライシングバリアントに対する発現阻害も可能です。(fig.5)
* ご注文の際には、スプライシング阻害を標的とする旨をお知らせ下さい。
配列設計補足情報
- タンパク質の翻訳を阻害する場合(fig.6)
特定のmRNAの翻訳を阻害するためには、モルフォリノオリゴの一部が開始コドンの上流に結合していればよいので、5’-UTR(非翻訳領域)内の標的部位に相補的なモルフォリノオリゴを結合させます。翻訳開始複合体の一部であるリボソームの小サブユニットが5’キャップまたは内部リボソーム侵入部位(IRES)から開始コドンに向かって移動する際に、その経路上に結合したモルフォリノオリゴが小サブユニットの進行を停止し、成熟したリボソームの形成を中断することができます。なお、5’-UTR内にイントロンがある場合は、開始コドンがその後のエクソン内に現れることにご留意下さい。
- mRNAのスプライシングを阻害する場合
モルフォリノオリゴは、スプライスジャンクションまたはスプライス調節タンパク質の結合部位のいずれかを標的としてスプライシングを改変します。スプライスジャンクションを標的とする場合、25塩基のモルフォリノオリゴは、エクソン配列由来の0~10塩基と、イントロン配列の末端部分を標的とします。最初、または最後のスプライスジャンクションを標的にすると、通常、隣接するイントロンが挿入されます。(fig.7)
他のスプライスジャンクションを標的にすると、通常は隣接するエクソンが欠失されます。また、ダブルエクソンスキッピングや隠れたスプライス部位の活性化などにより、イントロンの一部挿入や、エクソンの一部欠失が引き起こされることもあります。時には、例えばエクソンが丸ごと欠失した転写産物と、エクソンが部分的に欠失した転写産物の2つの産物が生じる場合もあります。(fig.8)
コントロール実験用モルフォリノオリゴ鎖(Control Oligo)
- 汎用コントロールオリゴ鎖(Standard Control)
コントロール実験用の25 merのStandard Control Morpholino Oligoです。
5’ - CCT CTT ACC TCA GTT ACA ATT TAT A - 3’
この配列は、ヘモグロビン異常症であるサラセミアにおける赤血球β-グロビンpre-mRNA中705番目の部位のスプライシング異常により生じた配列に由来し、正常細胞では、特異的標的部位や生物学的活性を有していません。
- カスタムデザインオリゴ鎖(Custom Designed Control)
Invert of Antisense
カスタム配列のコントロールオリゴ鎖が必要な方は、アンチセンスとは逆配列のオリゴ鎖を使用することをお勧めします。このオリゴ鎖は、アンチセンスオリゴ鎖と同一長、同一塩基組成であるため比較コントロールに適しています。
例)アンチセンス配列 5’ - AAC GAA CGA ACG AAC GA CGA ACG - 3’
逆配列コントロール 5’- GCA AGC AAG CAA GCA AGC AAG CAA - 3’
Antisense Containing 5 mis-pairs
厳密なコントロール実験を行いたい場合には、以下のように5か所にミスマッチ部位の入ったオリゴ鎖を用いることをお勧めします。
ミスマッチコントロールを用いることにより、アンチセンスオリゴ鎖が実際に厳密な配列特異性を示すことが実証されます。
例)アセンチセンス配列 5’ - AAC GAA CGA ATG AAC GAA CGA ACG - 3’
5mis-pairsコントロール 5’ - AAC AAA TGA ACG AAC GAG CGG ACG - 3’
Sense Complement of Antisense
下記のようなセンス配列オリゴ鎖の作製もいたしますが、GeneTools社ではモルフォリノアンチセンスのコントロール実験用としては、あまりお勧めしていません。
例)アンチセンス配列 5’ - AAC GAA CGA ACG AAC GAA CGA ACG - 3’
センス配列コントロール 5’ - CGT TCG TTC GTT CGT TCG TTC GTT - 3’
モルフォリノオリゴ鎖の細胞導入用製品
- Endo-Porter
両親媒性のペプチドから成るトランスフェクション試薬です。エンドサイトーシスにより、モルフォリノオリゴヌクレオチドを始め、ペプチド、タンパク質、抗体などを、細胞の代謝レベルや形態を変化させずに導入できます。
DMSO溶液製品(Endo-Porter DMSO)、DMSOフリー水溶液製品(Endo-Porter Aqueous)に加え、さらに導入効果が高く細胞毒性も低いPEG溶液製品(Endo-Porter PEG)もあります。使用する細胞に合わせて製品を選択できます。
低分子量(M.W.:<8 kDa)かつ負に荷電した物質の場合は、導入効率が低下します。モルフォリノオリゴヌクレオチドを導入する際は、未標識またはリサミン標識のものをご使用下さい。また、Endo-Porterによる細胞への導入には、10μMのモルフォリノオリゴヌクレオチドを使用することをお勧めします。
* 使用するEndo-Porterの量はロットごとに変動します。製品添付のプロトコルをご覧下さい。
Endo-Porterによる導入機構
- Endo-Porterの特長
・あらかじめ導入物質とEndo-Porterの複合体を形成させる必要がなく、各々を直接培地に加えるだけで導入できます。
・付着細胞、浮遊細胞のいずれにも使用できます。
・無血清培地、および血清濃度が10%までの培地で導入可能です。
・細胞毒性を示さず、細胞の代謝レベルや形態を変化させずに導入できます。
・導入する際に特別な培地は不要です。また、導入操作後、Endo-Porterの除去や培地交換も必要ありません。
・Endo-Porterが適切な濃度で培地中に存在する限り、目的物質が導入され続けます。
各アプリケーションのモルフォリノアンチセンスオリゴ使用濃度
アプリケーション |
モルフォリノアンチセンスオリゴ濃度 |
希釈溶液 |
培養細胞への導入 [Endo-Porter PEG(#Endo-PEG)を使用] | 1~10 μM | 滅菌水 |
マイクロインジェクション による胚への導入 | 1~10 μM (胚の体積1 μlあたり1 mMの濃度で1~10 nlインジェクション) | 滅菌水またはバッファー |
無細胞翻訳系での遺伝子抑制 | 100~1,000 nM | ライセート |
Morpholino Antisense Oligoと3種類のCustom Designed Control(Invert of Antisense Oligo、Antisense with 5 mis-pairs、Sense Complement of Antisense Oligo)の価格は共通です。
Morpholino Antisense Oligo, Custom Designed Control
品名 |
包装 |
価格(税抜) |
納期 |
Morpholino Antisense Oligo, Classic(18~25mers) |
300nmol |
¥95,000 |
お問い合わせ |
1,000nmol |
¥213,000 |
6,000nmol |
¥588,000 |
* 発注単位は上記に記載の包装となります。
* より大容量をご希望の場合はご相談下さい。
標識追加料金(Morpholino Antisense Oligo, Custom Designed Control共通)
包装 |
価格(税抜) |
300nmol |
¥31,000 |
1,000nmol |
¥48,000 |
6,000nmol |
¥95,000 |
3’-標識 |
5’-標識 |
- | AF488 |
Alkyne | Alkyne |
Amine | Amine |
Azide | Azide |
- | Amine and Biotin |
- | Biotin |
- | Cholesterol |
Cyclooctyne | Cyclooctyne |
Disulfide amide | Disulfide amide |
Dabcyl | Dabcyl |
- | Fluorescein |
- | GeneTools Blue |
Hydroxy(*) | - |
- | Lissamine |
- | Pyridyl dithio |
- | Sulfo-Cyanine 5 |
Triethylene Glycol(*) | - |
* 核酸医薬品で使用されている末端修飾です。