概要
超保存領域(Ultraconserved regions:UCR)は、遠縁種のゲノム間で良く保存され、ほぼ100%同一である特異的な200bp以上の配列から構成されています。これらの多くは、生物学的に不可欠と考えられている特定の非翻訳RNAを転写します。この非翻訳RNAは、Transcribed Ultraconserved Region(T-UCR)と呼ばれ、ヒトゲノムの481のUCRから転写されるLncRNAとして知られています。近年のゲノムワイド発現プロファイリング研究は、いくつかのT-UCRが白血病および固形腫瘍(神経芽細胞腫)において異常に発現していることを示しています。これらの結果から、T-UCRの発現様式による特定のがんの診断および予後の予測が期待されています。
しかしながら、T-UCR研究にはいくつかの課題があります。
・新規T-UCRを体系的に発見するプラットフォームが存在しない。
・潜在的T-UCRに特異的なプローブの設計が困難(検出の不正確性)
・T-UCRおよびその近傍タンパク質コード遺伝子との機能的関連性を解明する有用なツールがない。
・既存データベースのUCR情報が古い
本サービスは、上述の課題を踏まえ、UCRおよびその周辺領域の配列、lncRNAおよびmRNA転写産物またはUCRと重複する転写産物ユニット、UCR近傍遺伝子を網羅し、T-UCR発現およびその境界、転写産物、潜在的な標的遺伝子に関する情報を最大限引き出す様に設計されたアレイを使用して解析を行います。
特長
- ヒトT-UCRおよびその周辺領域、UCRと重複するlncRNA/mRNAの発現を網羅的にプロファイリング
- T-UCRの正確な検出および新規T-UCRの発見
- 診断や予後の予測に重要となるバイオマーカー候補の同定の支援
マイクロアレイ情報
プローブ情報
総プローブ数 |
60,887 |
プローブ長 |
60mer |
ラベリング方法 |
ランダムプライミング。3’バイアスなしで転写物の全長に沿ったアンチセンスRNAをCy3またはCy5標識。 |
プローブ内容
プローブ標的 |
プローブ数 |
詳細 |
UCRおよびその拡張領域 |
51,321 |
各末端の側面に、1kbの付加配列をもつ481種類のUCR。
Strand-specific probeは、40bpでタイリング。 |
潜在的なT-UCR(公共データベースから収集された、センスまたはアンチセンスの方向でUCRとオーバーラップするLncRNA) |
475 |
信頼できるデータベースから収集された153種類の潜在的T-UCR(RefSeq, UCSC knowngene, Ensemblなど)。
プローブは、正確かつ確実にT-UCR転写物を同定するために、特定のエクソンまたはスプライスジャンクションを標的としている。 |
転写単位(TU)がUCRと重複するRNA転写物(LncRNAおよびmRNA) |
6,438 |
NCBI RefSeq、UCSCとして知られるGene5、Ensembl37.64、およびGenBankに由来する1,528種類のLncRNAと2,261種類のmRNAを含む。 |
UCR近傍遺伝子 |
1,853 |
500KbのUCR内に位置する1,809種類のタンパク質をコードする遺伝子。 |
ハウスキーピング遺伝子 |
200 |
インターナルポジティブコントロールとして役立つ20種類のハウスキーピング遺伝子(ACTB、GAPDH、UBC、RPS18など)。 |
ヒト配列に無い遺伝子 |
600 |
インターナルコントロールとして役立つ、その配列がヒトゲノム中に見出されない60種類のDNA断片。 |
ワークフロー
本サービスでは、サンプル調整からデータ解析まで、LncRNAマイクロアレイのプロファイリングに関するフルサービスを提供します。段階的な品質管理は、信頼できる結果の取得を確かなものにする様にデザインされています。お客様にはサンプルをご提供いただくだけです。
サンプルのご準備については、
Sample Submission Guideline をご参照ください。
・RNA品質チェック(QC)
・cDNA合成
・Cy3ラベリング
・アレイハイブリダイゼーション、洗浄、スキャンニング
・データ抽出、解析、要約
バイオインフォマティクス
このアレイは、UCRおよびT-UCRの配列に加え、それらの周辺領域および関連遺伝子もプロファイルして解析します。潜在的にT-UCRの制御下にある発現変動タンパク質コード遺伝子は、生物学的機能を推定するために、Gene Ontology解析およびパスウェイ解析の対象となります。
- T-UCR発現解析
発現値および発現変動は、スキャッタープロットやヴォルケノプロット、階層型クラスタリング ヒートマップ、変動強度、統計検定によって解析されます。標準的な解析は、以下のアノテーションされたアレイの特色も含んでいます。
- UCRおよびその周辺領域における新規転写領域
殆どのT-UCRは、その転写産物ユニットのために、まだ十分に特徴づけられていません。481のUCRおよびその両端から1kbがストランド特異的プローブ(解像度40bp)によってタイリングされているため、それらの転写物を発見および定義します。
- UCRと転写が重複するLncRNAおよびmRNA転写産物
本アレイは、センス鎖またはアンチセンス鎖の方向でUCRと転写ユニット(Transcription Unit: TU)が重複する数千のlncRNAおよびmRNAを解析します。これらは、選択的スプライシングやmRNAプロセッシング等によるT-UCRの転写後調節がされたり、がん・正常間で発現が変動したりする可能性があります。
- UCR近傍遺伝子
T-UCR発現を伴う遺伝子間UCRは、cisに遠方の遺伝子転写を制御する組織特異的エンハンサーとして機能する可能性があります。UCRの500kb内に座位する数千の近傍遺伝子は、そうした機能的関連性を明らかにするためにプロファイルされ、かつアノテーションされています。
参考文献
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